スタブと反射

信号には送り手と受け手があります。1対1で送る場合もあれば、受け手が複数の場合もあります。
そして1対1のつもりでも、実はそうでなくなることもあります。

電気信号の速度は有限
電気信号が波として線路を伝わる速度は光速の約2/3、66%と高速ですが周波数が高くなるに従い、無視できなくなります。図1は線路長1cm当たり、周波数による位相の変化を示します。波数が1MHzでは1mの線路では1.8°の位相ずれですが、100MHzでは180°、つまり位相は反転します。

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図1 周波数 - 線路長 - 位相ずれの関係

時間で考えると図2のように線路1m当たり5nsの時間遅れ(遅延時間)を生じることになります。

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図2 同軸ケーブルにおける伝搬遅延時間

接合点で起こること
電気信号はスムーズに流れなければいけませんが、インピーダンスの整合を考えなければなりません。
低周波でも高周波でも反射波起こっているのですが、低周波では時間差が非常に小さいため反射波意識することはありませんが、反射波図3のように起こります。

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図3 終端インピーダンスによる反射の変化

図4の回路を考えてみます。
CMOSデバイスの入力インピーダンスは非常に高く、出力インピーダンスは低くなります。入力インピーダンスを高めることで消費電力を抑えることができるわけですが、信号伝送を考えると問題が出てきます。配線の伝送インピーダンスと入出力インピーダンスは大きく異なるため、各接続点で反射が起こる可能性があり、もちろん伝搬遅延もあります。そして配線の分岐はスタブになります。結果として対策を取らないと大きな波形歪を起こす可能性があります。

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図4 回路における反射の存在

気が付かないスタブ
図5はインタフェースの信号品質を測定するためのテストボードです。右側のコネクタから入力されたテスト信号はテストボード上の終端抵抗で終端されます。

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図5 波形測定で起きる信号の反射

図6はシングルラインの伝送線路です。出力インピーダンス=伝送線路の特性インピーダンス=負荷(終端)インピーダンスであれば反射は起こらずに、波形形状を乱すことなく伝送できます。

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図6 50Ω伝送路における無反射伝送

図1のテストボードでは信号をプローブで検出するために終端部にテスト・ポイントをピンで設けました。プローブによる信号検出では最良の方法です。信号のデータレートは約1Gbpsなので現在では決して高速信号というほどではありません。
しかし測定を行うと予期しない歪が起こりました。

その原因はテスト・ポイントに用いたテストピンです。理由としてはふたつの考えがあります。

● テストピンは短い伝送路、スタブと考える。
スタブの遠端は開放終端のためプラス方向に反射を起こします。電気信号は波として光速の約2/3の速度で進むため、1mには約5ns、1cmでは約500psになります。1cmのスタブでは往復で約1nsで反射波が戻ってくることになります。
● 短いために集中定数として寄生インダクタンスと寄生キャパシタンスが存在
配線は1cm当たり約10nHの寄生インダクタンスを持ちます。また2本の平行ピンの間には静電容量が発生します。
これらを集中定数として考えます。この二つをシニュレーションした結果が図7になります。パラメータは想定値なので正確ではありませんが、波形歪の発生が確認できます。

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図7 テストピンの影響をシミュレーション

スタブは信号の分岐としても使われます。図8はその例ですがスタブでは遠端で反射が起こります。シリーズ抵抗を調整することでロジック信号として問題が起きない程度まで波形歪を抑えています。

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図8 スタブの例

信号が高速になるに従い、プリント基板でも予期しないスタブが存在することがあります。
高密度の多層基板では例えば図5のように

信号層 - 信号層 – グラウンド – 電源 – 信号層 – 信号層

という構成になり、層間はビアで結合されますが、このビアがスタブとして動作してしまいます。信号が低速であれば問題は起こらないのですが、高速基板では注意が必要です。

このスタブを取り去るためにはドリリングを行います。

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図9 多層基板で起きるスタブ