データシートから読み取る性能~周波数帯域

周波数帯域はオシロスコープの性能を最も表している項目です。「このオシロは周波数帯域 500MHz」という言い方はよく耳にすると思います。

周波数帯域の定義は図1上図のように直流、低周波での振幅表示が3dB低下(約70%)する周波数になります。
つまり、周波数帯域500MHzのオシロスコープで振幅1V、周波数500MHzの信号を観測すると、振幅は約700mVと表示されることになります。
周波数帯域が概ね3GHz以下の汎用オシロスコープと呼ばれるオシロスコープの周波数特性は、ガウシャン特性に近似しています。
そのため理想パルス(立ち上がり時間がゼロ)、または極めて立ち上がりの速いパルスを入力した場合に、図1のように立ち上がり部分が鈍った波形になります。
周波数帯域とこの立ち上がり時間(10%から90%までにかかる時間)との間には 𝑇𝑟(𝑛𝑠)=350/𝐵𝑊(𝑀𝐻𝑧) の関係があります。
image-20241225135928007.png
図1 周波数帯域の定義とパルス応答の関係

代表的な周波数帯域 500MHzから1GHzのオシロスコープのデータシートを見てみましょう。
図2は各社オシロスコープのデータシート、カタログからの抜粋です。上から

●テクトロニクス 4シリーズMSO(MSO44/MSO46)
●横河計測 DLM3000シリーズ
●キーサイト・テクノロジー MSOX/DSOX4000Aシリーズ

image-20241225140117666.png
図2 代表的な汎用オシロスコープのカタログから

テクトロニクス 4シリーズMSOでは周波数帯域 200MHz/350MHz/500MHz/1GHz/1.5GHz
横河計測 DLM3000シリーズでは200MHz/350MHz/500MHz
キーサイト・テクノロジー MSOX/DSOX4000Aシリーズではテクトロニクスと同じく200MHz/350MHz/500MHz/1GHz/1.5GHz
が選択できます。
また、テクトロニクスとキーサイト・テクノロジーでは購入後に周波数帯域のアップグレードが可能です。
さて、テクトロニクスのデータシートを詳しく調べると、条件により周波数帯域は変わります。

図3はオシロスコープの入力インピーダンスを50Ωに設定した場合の周波数です。各周波数帯域のモデルの周波数帯域表示と同じになっています。また、電圧感度を最高に設定すると、どの周波数帯域のモデルもすべて250MHzに低下することが分かります。

image-20241225140424498.png

図3 テクトロニクス 4シリーズMSO 入力インピーダンス50Ωの場合の周波数帯域

汎用オシロスコープの入力インピーダンスは50Ω/1MΩの切り替えができます。1MΩの場合の周波数帯域が図4になります。周波数帯域が200MHz~500MHzのモデルでは入力インピーダンスを切り替えても周波数帯域に変化はありませんが、1GHz/1.5GHzのモデルでは500MHzに落ちています。


image-20241225140458893.png
図4 テクトロニクス 4シリーズMSO 入力インピーダンス1MΩの場合の周波数帯域

これはどういう事でしょうか。
あまり知られていないかもしれませんが、周波数帯域は「ソース・インピーダンス 25Ωの場合」という条件があります。図5においてジェネレータの出力インピーダンスは50Ω、出力を50Ωで終端することでソース・インピーダンスは並列の25Ωになります。
4シリーズMSOの1MΩ入力時の入力容量は図4下の表示から13pF、この場合の周波数応答特性のシミュレーション結果が図5になります。
振幅が-3dBになる周波数は約500MHzになり、理論値とデータシートの値は一致します。
図5のR1とC1によりローパス・フィルタが形成されることで、オシロスコープの周波数帯域が500MHzに制限されているわけです。

image-20241225140602341.png

図5 入力容量13pFによる周波数帯域の変化

オシロスコープの1MΩ入力をそのまま使用することは多くはありません。多くの場合、プローブを接続して使用します。
図6は付属のパッシブ・プローブを接続した場合の周波数帯域です。1.5GHzを除く各モデル共に本来の周波数帯域が確保できていることが分かります。

image-20241225140641365.png
図6 テクトロニクス 4シリーズMSO 付属のプローブ使用の場合の周波数帯域

図7は図5同様にプローブの入力インピーダンス1MΩ、入力容量4pFの場合の周波数応答特性です。周波数帯域は1GHz以上になり、オシロスコープ本来の性能が発揮できていることが分かります。

image-20241225140707967.png
図7 付属プローブ使用時の周波数応答

一般的な10:1パッシブ・プローブの場合、入力容量は約10pFです。同様に周波数応答特性を調べると図8のように周波数帯域は約600MHzになります。10:1パッシブ・プローブの周波数帯域が各メーカー押しなべて500MHz程度になる理由です。
image-20241225140743785.png
図8 入力容量10pFの一般の10:1パッシブ・プローブの周波数応答
テクトロニクスの10:1パッシブ・プローブTPP250/500/1000は従来の10:1パッシブ・プローブとは構造が異なり、容量を減らすために減衰比40:1と増幅器の組み合わせていると思われます。
キーサイト・テクノロジーからも同様の構造と思われる「Hi-Z+ PASSIVE PROBING SYSTEM」が発売されています。
ところで、測定したい回路のソース・インピーダンスにより実際の周波数帯域は変わるのではないかという点についてはどうでしょうか。
図9は一般的な10:1パッシブ・プローブ(入力インピーダンス10MΩ、入力容量10pF)を使用、被測定回路のソース・インピーダンスを25/50/100/1000Ωと変化した場合の周波数応答のシミュレーション結果です。

50Ωでは400MHz 100Ωでは200MHz以下 1000Ωでは20MHz以下 に低下します。

もっとも、ソース・インピーダンスの高い回路は低周波回路が多いために問題になるケースは少ないかもしれませんが、プロービングにおける事象として覚えておくと良いと思います。

image-20241225141007282.png

図9 回路のソース・インピーダンスで変わる周波数帯域