長い間、オシロスコープのチャンネル数は2チャンネルないし4チャンネルでしたが、8チャンネル・オシロスコープが登場し、取り込みの間口は広くなりました。
図1は代表的な6チャンネル以上のオシロスコープです。
4チャンネル仕様をボトムとして6チャンネルまたは8チャンネルの仕様が選べます。

図1 代表的な4チャンネル入力以上を選べるオシロスコープ
周波数帯域、最高サンプル・レートのバランスも適正化(最高サンプル・レートが周波数帯域の5倍程度以上)され、記録長も長くなっています。
波形メモリ長は長い機種が多くなりました。
ただし、図2に示すように常に最高のレコード長で使う必要はありません。
単純なクロック信号などの測定ではショートメモリで十分です。
複雑に変化する信号の場合には適切なレコード長を選ぶことで、必要なサンプル・レートを維持したまま必要な時間幅の取り込みができます。
また、トリガ位置を前後自由に設定することでトリガ以前を長い時間取り込むこともできます。

図2 レコード長、トリガ位置を任意に設定できる最近のオシロスコープ
図3はテクトロニクス、横河計測の現行機種の波形メモリ長を最短~最長まで変えた場合の、最高サンプル・レートで取り込みできる時間を示したものです。
これにより短い波形メモリで十分対応できる単純なクロック信号から、長い波形メモリが必要な高速信号とI2Cなどの低速シリアルバスの同時取り込み、商用電源周期の取り込みが必要なスイッチング波形まで対応できます。

図3 最高サンプル・レートで取り込む時間幅
このようにオシロスコープのチャンネル数、レコード長が向上し、波形取り込み能力は大きく向上しましたが、紛れ込む予期せぬ波形はその存在が分からなければ拡張トリガを駆使しても見つけることはできません。
つまり「波形監視能力」です。
「波形更新レート」、「波形更新速度」という表現で各社データシートに記載される性能があります。
図4のように波形をメモリに取り込みディスプレイに表示、そして次に取り込むまでにはデッドタイムと呼ばれる「波形を受け付けない」期間があります。デッドタイムは波形更新レートに関係します。
デッドタイムが長い、つまり波形更新レートが低い場合、稀に発生する信号を取り込める確率は非常に低くなります。

図4 デッドタイムが長い場合
図5のようにデッドタイムが短いほど、波形取り込みの確立は高くなります。

図5 デッドタイムが短い場合
図6はテクトロニクスの2世代前の製品であるTDS3054Bと、現行製品であるMSO46の比較です。
TDS3054Bは20年以上前の製品ですが、周波数帯域は500MHz、最高サンプル・レートは5GS/sと現行機種と比べて遜色ありません。
一方、波形更新レートは3000波形/秒。これが現行機種MSO46では50万波形以上/秒と大きく向上しています。

図6 波形更新レートの進化
このように波形更新レートを上げることで稀にしか発生しない波形を発見する確率は高まります。
確認できた波形に対して拡張トリガを駆使すれば、その信号を確実に取り込むことができます。
しかし、図5のような波形に対してはなかなか有効な拡張トリガは見つかりません。
辛うじてパルス幅トリガが使えるかどうかです。
そこで最近では任意にエリアを設定し、そのエリアに波形が入るか否かを判別する「ゾーン・タッチ・トリガ」、「ビジュアル・トリガ」などと呼ばれるエリア・トリガを搭載する製品が増えています。
エリア・トリガでは取り込んだ波形データと設定したエリアを比較します。
そのため図7のように、例えば大雑把にエッジ・トリガで信号エッジを検出、波形の取り込みを行います。
次に設定したエリアと合致するか否かを判別し、条件を満たせば波形を記憶、表示します。
波形処理プロセスが増える分、トータルでの波形更新レートは低下しますが、上手く使うことで、ピンポイントで波形を取り込むことができます。

図7 エリアでトリガをかけるプロセス
高速の波形更新レートを実現するためには波形レコード長は短いほど有利です。
そのため波形更新レートは最短の波形レコード長または実効的に短い波形レコード長での値になります。
例えばテクトロニクスではFastAcqという機能があり、自動的に波形レコード長は最短の1.25kポイントに、さらに発生頻度の低い波形を目視観測しやすい表示モードに設定されます。
ロング・レコードを分割して活用
ロング波形レコードを使えば同じサンプル・レートでもより長時間の記録が可能ですが、さらに波形メモリを複数に分割することでより多くのトリガ・イベントを記録することができます。
「セグメントメモリ」、「FastFrame」、「Nシングル」などと呼ばれる機能です。
この機能を使うとできるだけ短いデッドタイムで多くのトリガ・イベントを記録できます。
例えば1波形毎に波高値が変化する連続信号を分割したメモリ数分記録できます。

図8 メモリを小分けしてそれぞれがトリガを待つ
例えば波形メモリ長がレコード長10Mポイントの場合、1回あたりの波形レコード長を1000ポイントに設定すると
10M÷1k=10,000
の波形を待ち受け、トリガが発生する度に連続的に記録できることになります。

図9 メモリを分割する仕組み
図10は横河計測 DLM3054の繰り返し取り込みの動作速度です。
データシートに波形更新レートの記載は見当たりませんが、波形レコード長 最短の1.25kポイントにて実測値で約1万波形/秒になります。
デッドタイムは約0.1msになります。

図10 横河計測 DLM3000シリーズでの繰り返し取り込みの様子
このデッドタイムは「Nシングル」モードでは図11のように0.9μsと大幅に改善され、20,000波形を取り込んで終了します。

図11 横河計測 DLM3000シリーズでのNシングルの動作
図12はテクトロニクス MSO46の繰り返し取り込みの動作速度です。
波形更新レート 50万波形以上/秒からデッドタイムは約2μsになります。

図12 テクトロニクス MSO4シリーズでの繰り返し取り込みの様子
図13はFastFrameの場合です。
波形レコード長は50ポイントから設定できます。
50ポイントの場合150万波形、1000ポイントの場合約3万波形をデッドタイム最低0.2μsで連続記録が可能です。

図13 テクトロニクス MSO4シリーズでのFastFrameの様子
図14はキーサイト・テクノロジー MSOX4104Aの繰り返し取り込みの動作速度です。
波形更新レート 100万波形以上/秒からデッドタイムは約1μsと極めて高速です。

図14 キーサイト・テクノロジー MSOX4000Aシリーズでの繰り返し取り込みの様子
図15はセグメントメモリの場合です。
波形レコード長は最高1000ポイントまで設定できます。
再アーム時間1μsにて連続して記録できます。

図15 キーサイト・テクノロジー MSOX4000Aシリーズでのセグメントメモリの様子
このようにオシロスコープの取り込み機能は高度化しています。
しかしすべての信号が高速なわけではありません。
比較的遅い信号が連続して発生する場合、波形取り込みレートが速くない、デッドタイムが大きい場合でも、繰り返し取り込み波形を目視観測することで異常信号を確認できるケースがあります。
そこで用いられるのがヒストリと呼ばれる機能ですが、図16のように分割した波形メモリをリング状に考え、トリガが発生する毎に波形を取り込み続けます。
いわばドライブレコーダでの動画記録のようなものです。
目視により異常波形を確認し、マニュアル操作にて波形取り込みを停止、検索機能で目的の信号を抽出し確認することができます。

図16 ヒストリにおける異常信号取り込みの様子
ヒストリ取り込みは信号の速度によってはとても便利な機能です。
このように最近のオシロスコープには進化した取り込み機能が装備されています。
機種により搭載される機能、性能は異なりますので目的にあった製品を選ぶようにしましょう。