ファンクション・ジェネレータの接続方法

サイン波、パルス波のようなシンプルな波形から変調波、さらにオシロスコープで取り込んだ波形を再現、また任意波形発生器としても使えるファンクション・ジェネレータは実信号を得られないときに疑似信号として使える便利で手頃な計測器です。扱える周波数があまり高くないため、高速のパルス・ジェネレータのように厳密な接続は要求されませんが、負荷への接続に対する理解は大切です。
代表的なファンクション・ジェネレータとしてエヌエフ回路設計ブロックのWF1974を例に接続方法を考えてみましょう。データシートの出力特性の項を見ると図1の記載があります。

image-20240430092334660.png図10 波として考えたエンド終端での動作

図1 エヌエフ回路設計ブロック WF1974の出力特性 (データシートより抜粋)

振幅の設定範囲の項には

●出力を開放、つまり現実的には50Ωより非常に大きな負荷を接続した場合はピーク値で最高20V
●出力を50Ωで終端した場合は半分の最高10V
とあります。

このことから出力インピーダンスは計測用信号発生器のスタンダードとも言える50Ωであることがわかります。
ここではファンクション(波形)出力端子のグラウンドについて記載しています。

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図2 エヌエフ回路設計ブロック WF1974の出力端子のグラウンド (マニュアルより抜粋、作成)

これによると、図3のようにCH1、CH2のグラウンド(BNCコネクタの外側)はシャーシ・グラウンドから絶縁されている、さらにCH1、CH2のグラウンドもそれぞれ独立していることを示しています。

これにより(42Vまでであれば)両チャンネルともに別々のポイントを基準点として使えることになり、接続の自由度が高く、ノイズに対しても優位と言えるでしょう。

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図3 出力コネクタのグラウンドは独立

別の製品としてキーサイト・テクノロジーの33522Bを確認してみます。図4はデータシートからの抜粋です。

出力振幅はエヌエフ回路設計ブロック、WF1974と同等で

●50Ω負荷では1mVpp~10Vpp
●オープン(開放)では2mV~20Vpp

また出力インピーダンスは50Ωと記載されています。

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図4 キーサイト・テクノロジー 33522Bの出力特性 (データシートより抜粋、作成)

ただしアイソレーションの項を見ると、図5のようにグラウンドはシャーシ・グラウンドからは絶縁されていますが、CH1、CH2のグラウンドは共通と思われます。多くの場合、問題は無いと思われますが、両チャンネルのグラウンドを別々に取ることはできませんので、その点は注意が必要です。

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図5 キーサイト・テクノロジー 33522Bの出力

さてデータシートには負荷抵抗として50Ωと開放(オープン)がありますが、ぞれぞれの意味するところを考察してみましょう。

キーサイト・テクノロジー 33522Bを例にすると(エヌエフ回路設計ブロック WF1974も同じ)図6のようになります。接続には反射の悪影響を考慮して伝送インピーダンス 50Ωの同軸ケーブルを使います。

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図6 50Ω終端と解放の違い

オシロスコープで観測する場合を考えると、入力インピーダンスは1MΩ/50Ω切り替えになり、1MΩ時ではほぼ開放と言えます。

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図7 オシロスコープの入力インピーダンスを1MΩにした場合

この場合、図8のように出力インピーダンス50Ωの信号源から出力された信号は50Ω同軸ケーブルに達した瞬間に電圧振幅は抵抗分割で1/2になります。この信号が同軸ケーブルを伝わり、インピーダンス無限大(開放)の終端部に達するとプラス方向に全反射を起こし、電圧振幅は2倍、つまり出力時のレベルになります。直流的に考えると、負荷抵抗が無限大なので出力振幅は変わらずにそのまま伝わると考えることができますが、波としてはこのように考えられます。
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図8 波として考えた解放終端での動作

負荷抵抗が50Ωの場合はどうなるでしょうか。

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図9 オシロスコープの入力インピーダンスを50Ωにした場合

図10のように信号が負荷抵抗に達すると反射波起こらず、負荷抵抗にすべて吸収されます。つまり出力端に現れる信号振幅は出力の1/2になります。

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図10 波として考えたエンド終端での動作

勿論、直流的に同軸ケーブルを省いて考えると出力インピーダンスと負荷抵抗により信号振幅は1/2になると考えることもできます。

ケーブルのインピーダンスに注意

計測器や業務機器で使われる同軸ケーブルには2種類あります。計測器の接続にはほぼ50Ωが使われますが、テレビ放送機器、デジタル・オーディオでは75Ωです。50Ωの同軸ケーブルは3D-2V、5D-2V、75Ωは3C-2V、5C-2Vなどが多く使われ、「D」は50Ω、「C」は75Ωを示します。ところがケーブル本体には「50Ω」、「75Ω」と表示されているとは限りません。
図11のようにうっかりと75Ω同軸ケーブルを使ってしまうケースが起こります。図11では50Ωで終端したつもりですが、どうなるでしょうか。
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図11 接続に75Ωの同軸ケーブルを使ってしまうと

この場合、ファンクション・ジェネレータの出力端子⇔同軸ケーブルの間でインピーダンスの不整合が起こります。勿論、受信端では同軸ケーブル(75Ω)⇔50Ω負荷でマイナスの反射が起こり、反射波がファンクション・ジェネレータまで戻ってきます。そして出力端子にて今度はマイナス方向に反射が起こり、反転した反射波が受信端に戻ります。図12でシミュレーション結果と実験結果を示しますが、出力では大きな歪みが起っていることが確認できます。

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図12 接続に75Ωの同軸ケーブルを使った場合の波形

では図13のように終端を開放にすれば良いでしょうか。

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図13 接続に75Ωの同軸ケーブルを使って解放終端で使うと

この場合も歪みは減りますが図14のように反射の影響が見られます。

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図14 接続に75Ωの同軸ケーブルを使い解放終端した場合の波形

同軸ケーブルによく似たケーブルにシールド線がありますが、伝送インピーダンスはわかりません。低周波の場合は反射が起っても波長が長いため、線路の影響が確認できないだけです。計測器には必ず合ったケーブルを使用しましょう。