オシロスコープ付属のプローブ以外に多くのプローブが別売されています。適切なプローブを選択することで目的を達成できれば良いのですが、市販のプローブで要求をすべて満たせるとは限りません。多くのアクティブ・プローブは各メーカーのオシロスコープ専用に作られています。使用しているオシロスコープのメーカーが必要なプローブを用意していない場合もあります。どのメーカーも手掛けていないプローブもあるかもしれません。その場合、プローブの原理を理解した上で自作のプローブで対応しなければならないでしょう。数10年前のエンジニアはプローブ環境から自前で構築することもあったようです。プローブの長さが足りない・・・延長できないか?プローブの長さは1mから1.5mが一般的ですが、自動車などのサイズの大きな測定対象では長さが足りないこともあります。そこで図1のように同軸ケーブルで延長したいという相談をよく受けますが、残念ながらこれはできません。同軸ケーブルの静電容量がオシロスコープの入力容量に追加される形になり、補正しきれなくなります。図1 プローブの長さが足りない解決策は?長さの問題以外にも耐熱性のプローブが欲しい、という相談もあります。現在のところ横河計測から長さ2.5m、-40~+85℃まで使用できる、またキーサイト・テクノロジーからは長さは2mですが同じく-40~+85℃まで使用できる10:1パッシブ・プローブが発売されています。これらで目的を達せない場合は自作するしかありません。図2のように低容量で耐熱200℃の同軸ケーブルが市販されていますので、10:1プローブの原理に基づいて図2のように自作?し、パルス・ジェネレータにて波形特性を確認してください。図2 プローブを自作する低入力容量のパッシブ・プローブはないのか?その1 高周波回路専用の低インピーダンス・プローブという選択減衰比10:1のまま入力容量を小さくしたプローブがあります。図3のようにプローブ先端の抵抗は450Ω、オシロスコープの入力インピーダンスは50Ωで使用します。図3 低インピーダンス・プローブの原理入力抵抗が500Ωになりますから図4のようにインピーダンスの高い回路では負荷になってしまい使用できませんが、一般に高周波回路はインピーダンスが低いため使用できます。図4 使用できる範囲が限られる低インピーダンス・プローブ写真1は低インピーダンス・プローブの製品例です。先端の抵抗を950Ωとして減衰比20:1のプローブもあります。写真1 キーサイト・テクノロジー 低インピーダンス・プローブその2 高電圧プローブという選択低入力容量だけでなくより高い入力抵抗が必要なケースが時にあります。アクティブ・プローブは入力容量1pFですが入力抵抗は高くても1MΩ、数10kΩが主流です。高電圧プローブというカテゴリーの製品になりますが、入力抵抗が高いまま、低入力容量として100:1のパッシブ・プローブが市販されています。写真2 100:1プローブの例オシロスコープの入力感度を5mV/divで設定した場合、トータルで感度は500mV/divに低下しますが、高感度の要求が無ければ十分使えるプローブです。構造例は図5のようになり、100:1を実現しています。以下は代表的な製品の性能です。テクトロニクス キーサイト・テクノロジー入力抵抗 10MΩ 66.7MΩ入力容量 2.5pF 3pF周波数帯域 500MHz 500MHz図5 100:1プローブの構造例裏技 自作するコンパクト・プローブさらに簡易的に低入力容量のプローブが必要な場合は、図6のように最低限の長さの同軸ケーブルを使って作成できます。補正調整はわずかな容量になるので先端部分のコンデンサは撚ったリード線で実現できます。撚り合わせ具合でプローブの補正を行います。図6 低入力容量のプローブ写真3は製作例です。長さはわずか10cmなのでオシロスコープの手元にターゲットを置くことになります。写真3 簡単に製作できるコンパクト・プローブ高周波信号の観測ではプローブの当て方に注意プローブは回路に挿入するわけですが、なかなか理想的なプロービングは困難です。実はデータシートに記載されているプローブの性能は図7のように「アクセサリは何も使っていない」状態での話です。入力抵抗10MΩ、入力容量10pFというのはこの事です。図7 プローブのカタログ性能は裸の状態この状態に近付けるためにアクセサリーとしてプローブ先端のグラウンド(金属性のスリーブ部分)に取り付けるスプリング形状の短いグラウンド線が同梱されています。このプロービング方法は理想ですが、困難なケースがほとんどでしょう。出荷状態では図8のようにフックチップと15cm程度のグラウンド線が付いています。図8 グラウンド線は電気的にインダクターになる実はリード線は1cmあたり約10nHのインダクタンスを持ちます。入力抵抗10MΩは十分に大きいので、図8のように入力容量と寄生インダクタンスは直列共振回路を形作ります。グラウンド線を15cmとして10pFと150nHでの共振周波数は 1/(2π√LC)より約130MHzになります。このため周波数帯域が100MHz以下のオシロスコープでは共振周波数が周波数帯域外になるため大きな問題にはなりにくいのですが、今日主流の特に500MHzのオシロスコープでは共振現象が波形再現性に大きな影響を与えます。周波数帯域が低いオシロスコープでも過大な長さのグラウンド線、先端に取り付けた長いリード線は影響があります。プローブが回路に与える影響プローブが回路の負荷になる負荷効果と、波形再現性が大きく問われる高速オシロスコープでは図9のような方法でプローブの評価を行います。信号を取り出すためにインピーダンス・マッチングの取れた同軸ケーブル同様のマイクロスプリットラインを使用します。理想的なプローブは挿入しても元の波形に影響を与えず、伝送線路で入力された波形とプローブの波形は一致するはずです(実際は理想とは異なるため、高速オシロスコープでは波形補正を行っています)。図9 高速プローブの性能評価ここではプローブの当て方が波形再現に与える影響を図10の方法で確認しました。信号の立上り時間は約2ns、オシロスコープは横河計測の周波数帯域500MHz製品を、プローブはその付属品を使用しました。プローブ入力は次のとおりです。入力抵抗/入力容量:10MΩ/約10.5pF図10 プローブのアクセサリーの影響を評価図11は理想的なプロービングでの結果です。元信号に与える影響も小さく、波形再現性も良好です。このプローブの実力と言って良いでしょう。図11 最短のグラウンド線次に標準のフックチップとグラウンド線を使った例です。負荷効果が若干増え、プローブの波形には大きな振動(リンギング)が発生しています。これでは良好な波形観測とは言えません。図12 標準のグラウンド線表面実装基板ではフックチップでつまむことはできません。テストポイントとして基板にリード線を取り付けてプロービングすることも散見されます。図13は先端に5cmのリード線を加えた例です。負荷効果、リンギングがさらに増えてしまいました。これではオシロスコープを使う意味があるのか疑わしくなりそうです。図13 フックチップに5cmのリード線を追加そこで高速プローブでは常套手段として使われるダンピング抵抗を使います。先端のリード線の代わりに100Ωのリード抵抗を使った例が、図14です。図14 リード線の代わりに100Ωのリード抵抗負荷効果、リンギングともに抑制されています。ただ立上り部分に影響が出ることは注意が必要です。シミュレーションでプロービングを検証プローブ・アクセサリーの影響を知るためには実験ができればベターですが、シミュレータを使って机上でも検証できます。テクトロニクスの500MHz 10:1パッシブ・プローブ P6139Aのデータシートから読み取った値を使って、プローブ・アクセサリーの影響をシミュレータ(LTSpice)で調べてみます。・入力抵抗 10MΩ・入力容量 8pF・内部のダンピング抵抗 40Ω・先端部分等の寄生インダクタンス 10nHと仮定信号の立上り時間は2nsです。(1)最短のグラウンドを使用グラウンド線の影響はわずかで共振はほとんど起こっていません。図15 最短のグラウンド線を想定(2) 標準の15cmグラウンド線を使用15cmのリード線の約150nHの寄生インダクタンスとプローブの入力容量とによる共振が確認できます。図16 標準のグラウンド線を想定(3) プローブ先端に5cnのリード線を付加さらにインダクタンスが増え、共振周波数は低下し、振幅も増えています。図17 標準グラウンド線+先端のリード線(4) リード線の代わりに50~300Ωのリード抵抗を使用抵抗の寄生インダクタンスは10nHと想定、抵抗値が増えるに従い共振は抑えられていきます。300Ωの時は共振尖鋭度Qが0.5、臨界制動になりますが、同時に立上り時間の劣化、周波数帯域の低下が目立ちます。多少の振動はありますが100Ω程度が適当と思います。図18 抵抗値を変えて制動状況を確認製品によりダンピング抵抗が付属しています。写真4は横河計測の高電圧差動プローブです。併用するリード線の長さに応じて最適の抵抗を接続して使用します。写真4 横河計測の高電圧差動プローブこのようにわずかな工夫で計測の幅を増やすことができます。