メーカーが異なると測定結果は変わる?-2

デジタル・マルチメータの性能の目安としては「桁数がありますが、測定確度を左右する要素として入力抵抗を考慮する、ということを前編で解説しました。
デジタル・マルチメータ同様、オシロスコープも同じ製品を複数台使う場合が多いと思います。
オシロスコープでは周波数帯域に目が行きますが、測定結果の互換性についてはどう考えれば良いかを考察します。

電圧軸の確度
オシロスコープは「時間vs電圧」を測る計測器ですから、電圧軸の確度は重要な要素です。ただしオシロスコープの電圧確度はデジタル・マルチメータほど高くありません。
デジタル・マルチメータはDC電圧、AC電圧ともに測定できますが、周波数上限はせいぜい数100kHzです。
一方オシロスコープはデジタル・マルチメータとは比較にならない高周波まで対応できますが、逆に確度は1~3%程度になります。
そして重要なのは「DC確度」で定義されていることです。
直流を測定した場合の確度ですが、オシロスコープで直流電圧を確認することはあっても、電圧値を測定するのはデジタル・マルチメータの役目でしょう。
オシロスコープは波形観測・測定が目的の計測器です。

周波数特性が平らであればDC確度が広い周波数で保証できますが、平坦さについてはほとんどのオシロスコープではデータシートに記載されていません。

つまり交流の振幅確度については「分からない」ことになります。

とはいっても実際はほとんど問題ない程度と考えて良いでしょう。
むしろパッシブ・プローブの補正が適切に行われているかどうかが問題です。

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図1 オシロスコープの電圧確度の校正

オシロスコープの中も周波数帯域が概ね2GHz以下の「汎用オシロスコープ」という範疇の製品では、周波数特性はガウシャン特性に近似しています。
図2に示すようにガウシャン特性では周波数帯域の10%程度までほぼ減衰なし、30%のポイントで感度は3%低下します。
このため例えば周波数帯域500MHzのオシロスコープでは50MHz程度までの振幅はDC確度に準じる確度で測定できると考えて良いでしょう。
メーカー、校正事業者で行われる周波数帯域の確認は図2のように出力振幅が周波数に依らず均一のオシロスコープ校正器を使用します。周波数を徐々に上げていき、表示される振幅が70%(-3dB)に減少する周波数をもって周波数帯域とします。

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図2 オシロスコープの周波数帯域の校正

ところで、オシロスコープは時間軸で測定する計測器です。それなのになぜ周波数帯域で性能が表示されるのか、理解に苦しむことがあります。そこで急峻なパルス応答(ステップ応答)をもって時間応答性能を考えてみます。
図3のように有限の周波数帯域により、パルスの高周波成分は減衰します。その結果、立ち上がり/立ち下がりが鈍ります。
10%~90%に遷移する時間を立ち上がり時間としてデータシートに記載されています。

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図3 立ち上がり時間と周波数帯域の関係

立ち上がり時間と周波数帯域の関係は図3のようになります。
350というパラメーターは製品により若干変化しますが、周波数帯域と立ち上がり時間の関係については、製品間の差はあまりないと考えて良いでしょう。

つまり周波数帯域が変わらなければ、製品ごとの表示波形に差はほとんど出ないことになります。

ステップ応答波形については振幅の2%程度のオーバーシュート/アンダーシュートがあることがありますが、この波形の暴れは後述するプローブの方が多く発生します。

入力インピーダンスの違い

デジタル・マルチメータの電流測定に関しては、入力抵抗(シャント抵抗)値が製品間で違いがあるため回路に与える影響が異なり、結果として測定結果に差が出ることがあります。

オシロスコープでは入力インピーダンスは1MΩと50Ωの切り替えができます。
1MΩに関しては並列に入る入力容量に製品による差があります。
ただし、1MΩ入力については、ほぼ10:1、100:1などのパッシブ・プローブの接続が前提とされています。
このためオシロスコープ本体の入力容量についてはあまり気にすることはありません。

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図4 汎用オシロスコープの入力部

以上のことからオシロスコープ本体に関しては同じ周波数帯域であれば測定結果に大きな差は生じないことになります。

トータルの波形再現性能はプローブで決まる
オシロスコープに標準装備の10:1プローブ、入力抵抗は10MΩ、入力容量は約10pF(一部特殊な構造で約4pFの製品があります)です。
プローブを回路に接続するということは図5のように、この入力抵抗と入力容量が加わることになり、特に入力容量が波形形状に影響します。

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図5 プローブの負荷効果

つまり図6のようにオシロスコープ本体ではなく、プローブにより波形に対する負荷効果が異なることになります。
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図6 プローブによる負荷効果の違い

この入力容量による差の影響は信号源の容量成分の大きさで変わります。

またプローブの当て方、プロービング方法の差が波形再現性に影響します。図7のようにグラウンド線の選択、リード線の追加により波形再現性は大きく劣化します。この詳細は別項を参照ください。

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図7 プローブ・アクセサリによる波形への影響

付属プローブとは別に各メーカーより別売のアクティブ・プローブ、最近では差動プローブも発売されています。
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写真1 汎用オシロスコープと併用する代表的な差動プローブ

アクティブ・プローブの入力容量は大きく減少し1pF以下になります。このように小さな値になると、むしろプローブの当て方による変化が大きく影響することがあるほど微妙な値です。
経験的には入力容量が10pF程度のパッシブ・プローブが問題なく使用できる限度は100MHz~200MHzと思われます。周波数帯域が350MHz超のオシロスコープの性能を発揮させるためには、アクティブ・プローブの採用がマストと考えます。
アクティブ・プローブであれば高周波成分に対する負荷効果は小さくなり、波形立上りに与える影響は非常に少なくなります。
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図8 アクティブ・プローブの入力インピーダンス

結論として汎用オシロスコープに関しては同じ周波数帯域の製品であれば、オシロスコープ本体の差異はあまりなく 、気にしなければならないのはプロービング方法、さらにアクティブ・プローブの採用であると思います。