ロゴスキーコイルとは

オシロスコープで波形を観測する場合、電子回路であれば、電圧波形の観測をすることだけで済むことが多くあります。たとえば、一般的に多く使われるCMOSデバイスの場合、送信デバイスの出力インピーダンスは低く、逆に受信デバイスの入力インピーダンスは非常に高く信号電流はほとんど流れません。
そのため、反射による波形乱れの制御が適切かどうかをオシロスコープによる電圧波形観測で確認できます。

一方、高速差動伝送の場合、負荷が差動インピーダンス100Ωになり、終端抵抗は抵抗負荷になり電圧波形の確認を行います。電流波形は電圧波形と相似と考えられます。
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図1 電圧波形の観測

ところが、パワー・エレクトロニクスの世界では負荷はトランスやモータなどの誘導成分を含むため、電圧波形と電流波形は大きく変わります。また、電力波形は電圧波形と電流波形を同時に測定し、掛け算することで求まります。
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図2 電圧・電流波形測定が必要なパワー・エレクトロニクス

電流波形を測定するために、長年クランプ式の電流プローブが使われてきました。クランプ式の構造は図3のように、可動式のコアに交流分を取り込むコイルと直流・低周波成分を取り込むホール素子が組み込まれています。

小電流向けプローブは比較的小型であること、また直流から高周波まで使用できることから広く使われてきました。
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図3 クランプ式DC/AC電流プローブによる電流測定

電力測定の分野に目を転じると、クランプ式に加えてロゴスキーコイルを使用した電流計が使われています。写真1はロゴスキーコイル式電流計の例です。大きな輪の部分がロゴスキーコイルになります。

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写真1 電力測定で使われるロゴスキー式の電流計

ロゴスキーコイルは一端が外れる構造になっており、図4のように片方の電力線を通すことで流れる電流値を測定できます。
往復(2本)の電力線を通すと発生する磁界の向きが逆のために相殺されてしまい、電流を測定することはできないので注意が必要です。

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図4 ロゴスキーコイルによる電流測定

しかし、漏れ電流のある場合は往復の電流値に差があるため、往復2本を通して電流が測定できる場合は漏れ電流があると判断できます。
その意味で写真1の製品は漏れ電流計となっています。
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図5 漏れ電流のある場合

ロゴスキーコイルの構造は図6のようにらせん状に巻かれたコイルです。らせんの部分を通る磁界が検出されます。巻き終わりは芯線として反対側に戻りますが、この部分は磁界と平行なために磁界の影響を受けません。また、C字型の形状により一端を外して測定するケーブルを通すことが可能です。

ただし、コイルの出力は電流波形の微分になるため、積分アンプにより電圧波形に変換されます。また直流電流には対応しません。

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図6 ロゴスキーコイルの構造

センサー部が小さい回路向けのロゴスキーコイル
回路向けロゴスキーコイルの特徴はセンサーサイズが小さいことです。従来型のクランプ式では特に大電流用のプローブは大きくなり、物理的にクランプできないこと起こり得ます表1に示されるようにロゴスキーコイルでは600A対応の場合でもセンサーは非常に小型です。
れは構造的にコアを使用しない、空芯コイルなためと思われます。ただし、小電流タイプであっても周波数帯域はクランプ式にはおよばず、また直流電流には対応しないため過渡電流の測定には不向きといえます。

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表1 代表的なクランプ式電流プローブとロゴスキーコイルの比較

電力測定には電力計(パワーアナライザ)が使われます。電流をできる限り正確に取り込むためには電流直接入力、ないしCTが推奨されますが、評価ベンチでは可能であっても、製品に組み込まれた状態では物理的に不可能なケースがあり得ます。その場合、ロゴスキーコイルの形状、サイズがプロービングに有効です。

ただし、ロゴスキーコイルの変換誤差は2%程度あるために計測確度には限度があります。

また、ロゴスキーコイルは細い線材を巻いているために物理的な力で破損しやすいことがあります。取り扱いには十分な注意が必要です。

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図7 電力計とロゴスキーコイルの併用例