一見似ている絶縁入力と差動プローブ

身近な計測器としてデジタル・マルチメータがあります。デジタル・マルチメータで電圧(電位差)を測定するときに、特にグラウンド基準を考慮することはありません。図1のように、デジタル・マルチメータの最大許容電圧の範囲内であれば自由に2点間の電位差を測定できます。
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図1 自由に2点間の電位差を測定できる

これが可能になるのはデジタル・マルチメータの計測回路部が大地グラウンドから切り離されているからです。図2のようにハンディ型デジタル・マルチメータは内蔵バッテリーで動作します。

このため大地グラウンドとは物理的に切り離された状態になります。もっとも大地グラウンドとの間には浮遊容量が存在するため厳密には完全に無関係ではありませんが。

ベンチトップ型デジタル・マルチメータの場合は商用電源で動作します。この商用電源は電気的に大地グラウンドに接続されているために、そのままでは計測回路部分は大地と絶縁されません。そのため電源部のトランスを利用して計測回路部分のグラウンドを大地から浮かせています。
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図2 デジタル・マルチメータにおける絶縁

二つの電気回路を絶縁する、つまり電流の流れる経路がなく、電気的に絶縁されたことをガルバニック絶縁(ガルバニック・アイソレーション)と呼びます。

これを実現する一つの方法がトランスです。図3のようにトランスは電気エネルギーを磁気エネルギーに変換、さらに電気エネルギーに変換することで絶縁を実現できます。ただし直流を変換することはできないことや、扱える周波数範囲が狭いなどの欠点があります。

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図3 トランスによる絶縁

トランスによる絶縁を応用した製品としては絶縁トランスがあります。医療機器では感電事故を防止するため電源部に絶縁トランスが組み込まれています。

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図4 絶縁トランスの例

ガルバニック絶縁を実現する方法としては、コンデンサによる容量結合による手法があり、デジタルのビットストリームのように帯域が狭い範囲の場合に使われます。

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図5 コンデンサによるデータの絶縁

ガルバニック絶縁を実現するもう一つの方法が、光の応用であるフォトカプラーです。フォトカプラーでは、図6のように電気信号はLEDにより光に変換され、この光がフォトトランジスタにより電気信号に戻ります。
直流にも対応し周波数帯域も広くすることができますが、エネルギーとして電力を伝送するには不向きです。
光の伝送路として光ファイバーを利用することで伝送距離を稼ぐこともできます。

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図6 光絶縁による手法

デジタル・マルチメータでは当たり前である絶縁測定をほかの計測器で実現することは容易ではありません。
それは扱う周波数範囲が直流~100kHz程度のデジタル・マルチメータより格段に広い故です。

オシロスコープは直流から高い周波数まで計測できます。特にオシロスコープではほとんどの製品が非絶縁入力です。図7のようにすべての入力チャンネルのグラウンド端子はシャーシに共締され共通グラウンドになっており、また電源の3ピンプラグのグラウンドピン(丸ピン)は商用電源を通じて大地グラウンドにつながっています。つまり、すべてのチャンネルのグラウンドは大地グラウンドにつながっています。

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図7 オシロスコープは周波数帯域が高く非絶縁入力

オシロスコープより周波数帯域が低いデータ・レコーダでは、図8のように多くの製品で絶縁入力になっています。すべての入力端子のグラウンドは別々でどこにもつながっていません。もちろん大地グラウンドともつながっていません。

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図8 周波数帯域が高くないレコーダは絶縁入力が主流

増幅部の入出力間で絶縁を実現するために、図9のように入力部と出力部の電源は絶縁されています。絶縁には数MHz程度の周波数帯域の製品では容量絶縁が採用されることが多いようです。

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図9 レコーダに採用される絶縁回路の例

最近では絶縁に光ファイバーを使用し、周波数帯域を広げた製品も登場しています。横河計測、日置電機からはインバータ出力波形の計測に便利な200MS/sの入力モジュールが発売されています。

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図10 代表的な絶縁入力のモジュール

多くのデータ・レコーダで採用される絶縁入力ですが、オシロスコープに必要な周波数帯域を確保することは困難です。周波数帯域200MHzを超える製品には絶縁入力の製品はありません。

 そこで絶縁入力の代わりに高電圧で使用できる差動プローブを用いて、任意の2点間の電位差波形を計測します。図11は横河計測の製品例ですが、各メーカーからオシロスコープ専用の高電圧差動プローブが用意されています。

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図11 高電圧差動プローブの構造と耐電圧

差動プローブはあくまでも二つの非絶縁入力の引き算を計測するために以下の制限があります。

●大地からの電圧に制限がある(最大対大地電圧)
●二つの入力信号のわずかな振幅差を測定する場合、周波数が高くなると引き算の誤差が生じる

後者はCMRR(同相成分除去比)として性能がデータシートに記載されています。この問題はスイッチング・デバイスの高速化により顕著になっています。対処方としては絶縁プローブの使用が有効です。これに関しては別の記事で解説します。

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図12 高電圧差動プローブの問題点