今でも入手できるアナログ・テスター

デジタル・マルチメータ(デジタル・テスター)は手軽に、そして比較的高い確度で電圧・電流・抵抗を測定できるツールです。
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写真1 代表的なハンディ型デジタル・マルチメータ

デジタル・マルチメータの測定原理は図1のようになっており、キーデバイスである高分解能A/D変換器により高い測定確度を実現しています。被測定回路の動作に与える影響を避けるために高い入力インピーダンスのバッファ・アンプを設けています。

電圧測定では入力インピーダンスは一般的に10MΩと高い値になります。

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図1 デジタル・マルチメータによる直流電圧測定の原理

直流電流測定では図2のように内部に設けられた抵抗(シャント抵抗)に電流を流し、発生する電圧降下から電流値に変換しています。

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図2 デジタル・マルチメータによる直流電流測定の原理

抵抗値は小さいほど被測定回路の動作に与える影響も小さくなります。

抵抗値は測定電流レンジで変わりますが、大電流レンジでは1Ω前後、小電流レンジでは100Ω程度になります。この抵抗値は製品のデータシートに記載されていますが、「負担電圧」という表示で記載されている製品もあります。シャント抵抗値はその電流レンジの負担電圧を電流レンジで割ることで推測できます。

さて、今回のテーマである針式メーターを使ったアナログ・テスター、写真2は筆者の手元にある製品ですが、今でも市販されています。

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写真2 アナログ・テスターの例

針式メーターはフレミング左手の法則で動作します。

図3はフレミングの法則です。
左手の法則は磁界を横切る電流を流す導体が受ける力を、右手の法則は磁界を横切る導体に流れる電流を示します。左手の原理はモーターの原理、右手は発電機の原理になります。
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図3 フレミングの法則

針式メーターは固定磁石と可動コイル、スプリングから構成されています。コイルには流れる電流に比例した力が発生し、バネの反力と釣り合った位置で止まります。

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図4 針式メーターの内部構造

 このように針式メーターは電流計です。

写真3はアナログ・テスターの前面例です。
デジタル・マルチメータのようにスイッチを切り替えて直流電圧、交流電圧、抵抗、直流電流を測定できます。使用にあたってはちょっとした調整を行います。
抵抗測定では初めにテスター棒の先端をショートさせます。すると針が右に振れますが、0Ωを示すように調整します。デジタルのようにオートレンジはないので、針が振り切れないように測定レンジを設定し、目盛から値を読み取ります。

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写真3 針式アナログ・テスターの例

レンジ切り替えの左下を見ると、写真4のように直流電圧 0.25Vレンジと直流電流 50μAレンジが共通になっています。ここでこのレンジでの入力抵抗をデジタル・マルチメータで測定すると、写真4のように5kΩを示します。
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写真4 アナログ・テスターの入力抵抗を実測

これは図5のように考えられます。
電流計としても、電圧計としても内部抵抗、このレンジでの入力抵抗は5kΩになります。
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図5 アナログ・テスターの入力抵抗

日置電機から市販されているデジタル・マルチメータとアナログ・テスターの入力抵抗の比較が図6です。
電圧測定では回路に与える影響を少なくするためには入力抵抗が大きい程有利です。
デジタル・マルチメータ入力抵抗が10MΩ以上と大きな値であることに比べ、アナログ・テスターは低電圧レンジでは小さくなります。デジタル・マルチメータの優位性がわかります。
電流測定では入力抵抗は小さい方が有利です。アナログ・テスターの入力抵抗はデジタル・マルチメータのそれより大きくなり、この点でもデジタル・マルチメータが優位です。

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図6 デジタル・マルチメータとアナログ・テスターの入力抵抗比較例

さて、アナログ・テスターでは測定レンジにより入力抵抗が変化しますが、これは分圧器、分流器を使用するためです。

図7が分圧器、分流器の原理です。
分圧比が大きいほど入力抵抗は大きくなり、分流比が大きいほど入力抵抗は小さくなります。

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図7 分圧器、分流器の原理

このように計測器としてのアナログ・テスターはあまり良い点が見つかりません。特に小電圧、小電流では被測定回路の動作に影響を与える恐れがあります。ただし商用電源周りの測定では電圧が100~200Vと高いために、今でも使われています。

導通・接触の確認では便利
あまりメリットが見つからないアナログ・テスターですが、抵抗測定モードでの導通のチェック、接触不良のチェックではデジタル・マルチメータのビープ音より使い勝手が良いかも知れません。
針の振れが俊敏なため、接触不良、はんだ付け不良のチェックが行ないやすいと感じます。

アナログ・テスターは安価に入手できますから、入手しておいても良いかもしれません。