導体を流れる電子の速度は決して速くなく、平均速度は電流に比例し0.1mm/秒/A 程度と言われています。
電気の流れる速度と言っているのは波としての電位の移動速度であり、誘電率によりますが同軸ケーブルでは光速(30万km/s)の70%程度に、プリント基板の配線では約50%になります。
遅延時間は配線1mでは約7ns、1cmでは約70psです。

図1 電気の伝わる速度
写真1は信号発生器からの信号を等長ケーブルで2分割してCH1、CH3にて表示した例です。
インピーダンス不整合による波形歪が起きていますが、オシロスコープ本体のチャンネル間の時間ずれはないことが確認できます。

写真1 オシロスコープのチャンネル間時間差のチェック
図2は同軸ケーブルによる伝搬遅延の確認実験です。
信号発生器からの信号をオシロスコープ CH1に入力、Tコネクタで分岐し1mの同軸ケーブル経由でCH3に入力します。
CH1の入力インピーダンスは1MΩ(ハイ・インピーダンス)に設定することで、CH1を超える信号をそのままモニターできます。
CH3では50Ωの終端抵抗にてインピーダンス整合を取り、反射は起こりません。

図2 同軸ケーブルによる伝搬遅延の確認実験
図3が観測結果です。
CH1の立上りエッジでトリガをかけ、CH3の立上りエッジが5.4ns遅延していることが確認できます。

図3同軸ケーブルによる信号遅延の確認
このように信号が流れる経路では必ず時間遅延が生じます。
オシロスコープなどで複数チャンネルの観測を行う場合、すべてのチャンネルで同じプローブを使用する場合はプローブの伝搬遅延は相殺されるため、特に遅延時間を考慮する必要はありません。
しかし、異なるプローブを使用する場合は必ず考慮しなければなりません。
例えばスイッチング回路における電圧・電流測定です。
図4のように高電圧差動プローブにてコレクタ-エミッタ間電圧を測定、電流プローブにてコレクタ電流を測定する場合を考えます。

図4 スイッチング電圧・電流波形の測定
スイッチング・デバイスはオン/オフ動作を行います。
理想は以下のようになります。
● オン時・・・C-E間の抵抗(オン抵抗ゼロ) ゼロ
● オフ時・・・C-E間の抵抗値 絶縁
● オン⇒オフ オフ⇒オンの遷移時間 ゼロ
現実のデバイスではオン抵抗はゼロではなく、オン時にオン抵抗による電力損失が発生します。
また有限の遷移時間(図5におけるスイッチング区間)においては、Vce瞬時値×Ic瞬時値の電力損が発生します。

図5 スイッチング回路で発生する電力損失
図6は疑似信号での測定例です。
緑色が電力の瞬時値波形になります。

図6 電圧・電流間の時間差がゼロの場合
図7は電圧プローブの伝搬遅延時間が電流プローブのそれより20ns大きい場合(電流波形が20ns先行した場合)の結果です。
スイッチング区間での電力損失が大きく変化、オフ⇒オン時の損失が見かけ上増加しています。

図7 電流波形が20ns進んだ場合
図8は逆に電流波形が20ns遅れた場合ですが、逆にオン⇒オフ時の損失が見かけ上増加しています。
この例ではスイッチング周波数が約60kHz、波形の立上り/立下り時間も1μs程度と速くはありませんが、スイッチング速度が高速化しつつある現在では、数nsの遅延時間の差でも電力損失の測定に大きな影響を与えることは容易に想像できます。

図8 電流波形が20ns遅れた場合
プローブを含むチャンネル間の伝搬遅延時間の差は、オシロスコープ本体の調整機能にてキャンセルできます。
時間差調整のことをスキュー調整と呼び、表1のようにマニュアルに記載されています。

表1 各社オシロスコープの遅延時間調整機能
図9は横河計測の代表的なプローブの伝搬遅延時間です。
高電圧プローブ PBDH0150は減衰比により1nsの差がありますが、これはプローブ内部の回路構成に起因します。
このプローブを電流プローブ PBC100と組み合わせた場合には伝搬遅延時間の差はわずかでゼロ、または1nsです。
ところが、測定電流値の大きな701930と組み合わせた場合には27~28nsの差が生じるため、スキュー調整は必須となります。

図9 横河計測 各製品のデータシートより作成