計測器の故障の原因について予め知っておくことは大事なことです。故障が起きると修理期間の間、またレンタルでは代替え機の到着まで計測業務が滞ってしまいます。故障が起きないように使用しているつもりでも、無意識に故障を招くことを行っていることがあります。プローブの断線オシロスコープに信号を導くプローブは使用頻度が高く、壊れやすいものですが、扱い方により長く使うことができます。計測が終わり、プローブを収納する際はケーブルを巻くことが多いと思います。多くの方は図1のように巻いていると思いますが、一見この巻き方は丁寧に見えても、実は次回使う場合に広げると「キンク」と呼ばれる輪ができてしまいます。さらにケーブルを引っ張るとキンクが小さくなり、ケーブルにストレスがかかり、芯線が断線します。図1 丁寧なつもりで実はケーブルにストレスがかかる巻き方プローブのケーブルは、シールド線や同軸ケーブルと同様の構造をしていますが、写真1のように芯線は極めて細い構造になっています。また、反射による波形への影響を低減するために通常の銅線ではなく抵抗線になっています。このためストレスに弱く、簡単に断線してしまいます。椅子についているキャスターで踏んだだけで断線することもあります。写真1 極めて細い芯線プローブケーブルにストレスを与えずに巻くためには、図2のように1回巻くたびに左右に振り分けます。エレキギターをされる方、映像業界の方はケーブルを巻くときに「八の字」に巻きますが、同じ巻き方です。この巻き方であればケーブルを伸ばした時にキンクは発生しません。図2 キンクを発生させないケーブルに優しい巻き方」レンチでコネクタを破損よく使われるBNCコネクタは指で回してコネクタをロックできます。BNCコネクタは2GHz程度まで使用できますが、より高周波ではSMAコネクタ、3.5mmコネクタなどの六角のコネクタが使われます。スペクトラム・アナライザではNコネクタが主流です。(写真2)写真2 電気入力に3.5mmコネクタを使用したサンプリングモジュールこれらのコネクタはレンチを使って取り付けますが、必ず既定のトルクで締め付けなければなりません。規定のトルクで締め付けることで、コネクタの変形や破損を防ぎ、コネクタにおけるインピーダンスの変化も防止できます。このように、電気的な性能を正しく発揮させることに加えて、コネクタの破損を防止する意味でも重要です。時折、普通の六角レンチを使用してコネクタを物理的に破損するケースがあります。内部の基盤を破損することもあり、高額修理にもなりかねません。また、無償修理の対象にならないケースが大半です。写真3はキーサイト・テクノロジーから提供されているトルクレンチです。トルクレンチで締め付ける場合は、最後に指の重さでカクンとなる程度の締め付けが目安になります。写真3 キーサイト・テクノロジーのトルクレンチ
物理的ショックで壊れる電流プローブケーブルを切断することなく、クランプするだけで電流波形を測定できる電流プローブは便利なツールですが、故障も多い製品です。プローブケーブルの断線もありますが、電流センサの劣化が多く見られます。電流プローブは図3のようにコの字型とIの字型のコアから構成されています。そしてコの字型の部分に直流、低周波の電流を取り込むホール素子が組み込まれています。図3 クランプ式AC/DC電流プローブの構造落下、机にぶつけるなどの物理的ショックでこの部分にクラックが入り不具合を起こします。特に大電流タイプの電流プローブは重量があるため、落下によるショックはかなりのものになると想像できます。(図4)図4 落下などのショックがダメージを与える電流センサの不具合は軽度の場合、直流成分のドリフトとして現れます。症状が悪化するとデガウス、デマグを行っても直流バランスが取れなくなります。修理としては心臓部のセンサ交換になり、高額修理になります。電流プローブは丁寧に扱い、作業終了後は専用ケースに入れて保管するようにしましょう。