1mA以下の微小電流を測定したい場合には高感度の計測器が必要です。図1は代表的な高感度の電流プローブとピコアンメータです。日置電機のクランプ式電流プローブは周波数帯域120MHz、オシロスコープの電圧感度が1mV/divにて100μA/divの高感度が得られる電流プローブです。キーサイト・テクノロジーの電流プローブは回路に専用のシャント抵抗を取り付けるタイプですが、最高感度50μAの電流レンジ(この場合周波数帯域は500KHz)の電流プローブです。ピコアンメータはピコオーダーの電流をデジタル・マルチメータのように高分解能で測定できます。図1 代表的な微小電流の計測器直流電流測定というとデジタル・マルチメータを思い浮かべる方が多いと思います。ここでは桁の表示桁数を持つベンチトップ型デジタル・マルチメータの微小電流測定における実力を調べてみます。図2の設定で1.5Vのアルカリ乾電池に接続した1MΩの抵抗を流れる電流を計測します。事前の実測結果では実測値は下記の通りでした。・ 乾電池の電圧 1.606686V・ 抵抗値 1.005195MΩ電流の理論値はデジタル・マルチメータの入力抵抗(100Ω)を考慮して1.59822μA、計測結果は1.5958μAになりました。使用したデジタル・マルチメータ、直流電流200μAレンジでの確度は「読み取り値の0.010%+レンジの0.012%」です。これより誤差は±0.024μAになり、実効的には2桁程度の確度になると思われます。このケースでは抵抗1MΩに比べてデジタル・マルチメータの入力抵抗100Ωは1万分の1になるため、入力抵抗の影響は僅少ですが、計測誤差が目立ちます。図2 一般的なベンチトップ型デジタル・マルチメータによる微小電流測定同じ測定をハンディ型デジタル・マルチメータで行った結果が図3になります。使用したマルチメータの最高電流レンジは600μAですが、桁数が少ないため充分な分解能が得られず、1.6μAになりました。図3一般的なハンディ型デジタル・マルチメータによる微小電流測定以前に微小電流測定のできるオペアンプを使用したフィードバック電流計をご紹介しました。今回はその動作実験を行います。図4がフィードバック電流計の原理です。電流を測定したい箇所にオペアンプのマイナス入力とプラス入力を挿入します。オペアンプでは入力端子間の電位差はゼロ(イマジナリゼロ)、また入力インピーダンスが極めて高いために流れ込む電流は極めて小さくなります。このためデジタル・マルチメータで発生する負担電圧、シャント抵抗による電圧降下がなく、回路の動作に与える影響は僅少になります。測定したい電流iはフィードバック抵抗𝑅𝑓を流れ、オペアンプの出力端子からオペアンプ内部に流れます。この電流はオペアンプのプラス・マイナス電源経由でグラウンドに接続されたマイナス入力端子に流れます。オペアンプ出力端子に接続された電圧計の入力インピーダンスは十分に高い(デジタル・マルチメータでは10MΩ)ため出力電圧はになり入力電流が電圧に変換されます。図4 フィードバック電流計の原理図5は一般的なオペアンプ、型番NJM4580DDを使用した実験回路です。図5 フィードバック電流計の動作実験測定結果は-1.699Vです。理論的な電流値はシャント抵抗分がないため電流の理論値=1.606686/1.005195M=1.59838μAただしオペアンプのDCオフセットがあるため、これを考慮すると電流値は1.594μA、デジタル・マルチメータ単体に比べてより高確度、高分解能が得られました。本来であれば高感度計測器を使用するのが筋ですが、手元にあるとは限りません。今すぐにでも測定したい場合には使える方法といえるでしょう。図6 フィードバック電流計の実験風景この測定方法は直流電流測定だけではなく交流測定にも応用できます。ファンクション・ジェネレータ 出力周波数1kHz、振幅±1Vの正弦波負荷抵抗1MΩにて±1μAの電流を流します。図7 フィードバック電流計による交流波形測定図8ではCH2に電圧変換された電流波形が示されています。フィードバック抵抗により1μA ⇒ 1Vに変換され、微小電流波形が容易に観測できています。図8 実験したフィードバック電流計の出力波形パルス応答が図9になります。ファンクション・ジェネレータから立ち上がり時間40nsのパルスを入力した出力結果は立下り時間4.75μs、周波数帯域では約70kHzになります。(周波数帯域はフィードバック抵抗の値により変化します)図9 実験したフィードバック電流計のパルス応答ファンクション・ジェネレータの立ち上がり時間を20μsにした場合の結果が図10です。問題なく電流パルスが測定できていることが分かります。図10 立ち上がり時間20μsのパルス応答高感度の電流プローブを使用する方が確度保証の意味でもより正確に測定できますが、とりあえず簡単に測定する場合には有効な方法です。ただし、くれぐれも確度は自己責任になることは理解してください。