拡張トリガとゾーン・トリガの使い分け

オシロスコープで観測する信号の形は、クロック信号のような単純な繰り返しのものだけではありません
繰り返しがほとんどないロジック信号、パワー・エレクトロニクスの分野ではパルス幅が連続的に変化するPWM信号など、複雑な信号が多くを占めるようになりました。そのためオシロスコープには、単純なエッジ・トリガに加えて、拡張トリガ、スマート・トリガと呼ばれる多様なトリガが組み込まれています。

拡張トリガは図1のようにトリガ回路内部にハードウエアで回路が組まれています。

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図1 拡張トリガの内部イメージ

表1にあるのが、多くのオシロスコープに搭載されている拡張トリガです。

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表1 代表的な拡張トリガ

パルス幅トリガは設定したパルス幅に等しい、大きい、または小さいパルス幅のパルスを検出します。バスの競合などで引き起こされるロジック・レベルの違反や、ラント信号(ラントは切り株の意味)を検出するラント・トリガ、また最近ではシステムの停止でトリガをかけるために信号の停止を検出するタイムアウト・トリガを搭載した製品も増えています。

図2は二つのレベルの間のレベルを検出するラント(RUNT)トリガの実行例です。プログラミングのミスでバスの二つのデバイスが同時に別のロジック信号を出力すると、ロジック・ハイでもローでもないレベルの信号、ラント信号が発生します。
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図2 ラント・トリガの例

拡張トリガはハードウエアで構成されているため、図3のように高い確率でラント信号を捕捉できます。

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図3 拡張トリガによる波形取り込みのイメージ

分かって使えば便利なゾーン・トリガ
ゾーン・トリガ、ゾーン・タッチ・トリガ、ビジュアル・トリガなどメーカーにより呼び方は異なりますが、最近はオペレータがゾーンを指定し、そのエリアに入る(または外れる)信号を検出するトリガ機能が搭載される製品が増えています。
図4は発生頻度の低いラント信号を目視確認した例です。
オシロスコープでは波形を取り込めないデッドタイムがあるために、すべての波形を表示することはできません。
「波形取り込み ⇒ 波形処理 ⇒ 波形表示 ⇒ 波形取り込み」
サイクルを高速化するためにレコード長を最短(この例では1kポイント)に設定し、また表示モードは残光時間可変モードとしています。

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図4 波形更新速度を高速化して異常信号を目視観測

目視確認によりラント信号が観測できます。
この状態でゾーンを設定し、波形がゾーンを通過した場合のみ取り込んだ例が図5です。

この例では図6のようにエッジ・トリガにより取り込まれた波形をゾーンと比較しています。そして一致した場合のみ波形を記憶し、表示します。

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図5 ゾーンとマッチする波形を取り込み

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図6 ゾーンとマッチする波形を取り込む流れ

便利な機能ですが、トリガのかかり具合を確認すると、ラント・トリガと比べて大きく低下しています。これは図7のように第一段階でエッジ・トリガにて波形の候補を選出、その後にゾーンと比較して選択しているためです。

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図7 拡張トリガによる波形取り込みの内部イメージ

このようにゾーン・トリガは便利ではありますが、万能ではありません。できる限り拡張トリガなどであらかじめ信号を絞り込み、最後にゾーン・トリガで希望の信号を選出することが大切です。

ゾーン・トリガではエリアを画面上で設定する関係で、ある程度の面積が必要です。図8はラント信号をロング・レコードで記録、その後ラント部分を拡大した例です。上側の全波形では当然ですが波形は塗りつぶし状態になり、ラント波形を目視確認はできません。トリガには拡張トリガを使用します。

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図8 ラントを含む信号をロング・レコードで記録

実際にはラント状態を引き起こす原因をほかのアナログ・チャンネル、ロジック・チャンネルにて探ることになります。図9はロジック・チャンネルを使いI2Cバスを同時に取り込む方法です。


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図9 異常信号の原因を追究