レーダーの出力信号と反射信号、超音波距離センサーの入力信号と反射信号のように時間的に離れた信号をオシロスコープで測定することがあります。
限りあるサンプル・レート、レコード長を活かして効率良く測定する方法を考えます。
図1はパルス幅約1μsの入力波とそれにより発生した反射波の様子を示したものです。反射波が戻るまでの時間は約100ms、必要なサンプル間隔は1ns(サンプル・レート 1GS/s)とします。
この場合、全体を取り込むために必要なレコード長は100Mポイントです。
記録長の長くなった最近のオシロスコープでは必ずしも実現不可能なレコード長ではありませんが、データの記録、処理を考えると長大なデータは歓迎したくありません。
図1 長時間かつ高時間分解能のためには長いレコード長が必要
サンプル・レートを1/10に下げれば図2のようにレコード長は10Mポイントになりますが、サンプル・レートが信号に対し不足する懸念が出てきます。
図2 レコード長を短くすると時間分解能は低下
長大なレコード長はデータの記録、処理を考えるとできれば避けたいものです。
できるだけ短いレコード長で測定の目的を達成する方法を考えます。
時間遅延を使う
図3は
● CH1 スタート・パルス
● CH2 パルス列
を50msの間、取り込んだ例です。
レコード長は使用したオシロスコープの初期値125kポイント、サンプル・レートは2.5MS/sです。
サンプル・レートが低いためにエッジでのサンプル数が不足し、ズーム拡大をすると波形に補間エラーが発生しています。
図3 レコード長を初期設定(125kポイント)で取り込み
そこでサンプル・レートを上げるため、次のように条件を絞ります。
図4のように
● トリガになるスタート・パルスの波形は取り込まない
● 反応するまでの時間は正確に押さえたい
● 反応波形はしっかり取り込みたい
とすると時間遅延を使う方法で解決できます。
図4 時間遅延を使う方法
図5はレコード長を同じ125kポイントに保ちながら
● 時間軸を1/250の5ms/div→20μs
● サンプル・レートは2.5MS/sの250倍 625MS/s
時間遅延をかけて図3と同じポイントを取り込んだ例です。
着目したいエリアを高い時間分解能で取り込めています。
図5 時間遅延をかけて波形の一部を高速サンプルした例
シビアな時間遅延の例
オシロスコープの時間軸はクロックで動作するA/D変換器なので時間軸の確度、安定度は内部クロックに依存します。
通常の使い方であれば全く問題はないのですが、極めて稀なシビアな使い方では測定結果に影響を与えるケースがあります。
例えば時間遅延を秒単位で使い、遅延後の波形を時間窓µsオーダーで取り込む例です。
オシロスコープの時間軸確度はppmオーダーです。そのため秒単位の設定ではµsオーダーのずれが発生します。
図6のように波形を繰り返し取り込んだところ、取り込みごとに遅延時間のブレが発生し、取り込まれる波形が左右に振れてしまいます。
図6 長時間の遅延設定では内部クロックのジッタが測定を不安定にする
多くの測定器の背面には10MHzRefという入力端子があるのをご存知と思います。
ここに安定したリファレンス信号を入力することでより正確なA/D変換器の動作を実現できます。
リファレンス信号としては10MHzを発振するルビジウム式信号発生器を使います。
ルビジウムの確度は計測器内部のクロックに比べ数桁高いため、安定した測定が期待できます。
図7 ルビジウム発振器をリファレンス信号に活用
ルビジウム発振器はスペクトラム・アナライザなどの多くの測定器で併用できます。
周波数確度を高めたい場合は大変有効です。
図8
時間に関係なく任意のパルス数遅らせて取り込みたい
ロジック回路は順序回路です。時間ではなくパルスの数をカウントして任意のパルスでトリガをかけたいことがあります。
図9のようにスタート・パルスの後に来るパルス列の時間のタイミングが不定であっても、パルスの数をカウントするイベント遅延では安定したトリガが得られます。
図9 イベント遅延では時間の概念はなくなる
イベント遅延では通常のトリガ(Aトリガと呼ばれる)とは別のハードウエアを持つBトリガを使います。
Aトリガはエッジ・トリガ以外にもいろいろな拡張トリガがありますが、Bトリガはエッジ・トリガです。
図10のようにAトリガ発生後にBトリガの発生数をカウントします。
指定したカウント数に達すると取り込みトリガが発生します。
図10 任意のパルスでトリガをかけるイベント遅延
図11~14はAトリガ(CH1の立上り)後、CH2での20回目の立上りエッジを見つける例です
図11 CH1の立上りでAトリガをかける
図12 Bトリガを動作させる
図13 CH2の立上りでBトリガをかける設定
図14 Bトリガのカウント数を設定する
図14にてCH2、20個目のパルスがセンターでトリガがかかっていることが解ります。
この状態で時間軸を速くすることで図15のようにトリガ周辺を高速で取り込むことができます。
図15 20個目のパルスを高速サンプルで取り込む
イベント遅延の応用例としてイメージセンサの波形取り込みがあります。
図16のようにV Syncをスタートトリガ(Aトリガ)、H Syncをイベント・トリガ(Bトリガ)として使用、別チャンネルでデータを取込みます。
図16 イメージセンサの波形取り込みへのイベント遅延の応用
遅延機能を活用することで、観測したいポイントをクローズアップすることが可能になります。