「MMCXコネクタ」という言葉を耳にしたことはありませんか?世間一般では計測とは関係のない、一部の高級イヤホンに使われているコネクタです。最近ではBluetooth接続のワイヤレス・イヤホンを使用する機会が多いですが、音質重視のユーザー、またリアルタイム性、つまり音の遅れがないことが必須のミュージシャンなどの間では有線タイプのイヤホンが使われています。特に音質重視のメーカーからは図1のようにケーブルを簡単に交換することができる「MMCXコネクタ」を採用した製品が発売されています。これによりケーブル断線時の修理が容易になるだけでなく、マニアの間ではケーブルをより高級なものに交換する、「リケーブル」も行われています。図1 MMCXケーブルを採用したイヤホンまた有線タイプのイヤホンを別売のBluetoothレシーバを使用してワイヤレス化することも可能です。図2 MMCXコネクタを応用した無線化さてこのMMCXコネクタ、本来は高周波向けのコネクタで、形状は同軸コネクタのなかで最も小型です。写真1はMMCXコネクタを採用したプローブの使用例です。小型高周波コネクタであるSMAコネクタと比べても、かなり小型であることが分かります。またSMAコネクタがネジ式であるのに対して、MMCXコネクタは差し込むだけのプッシュオン式であるため、抜き差しが容易になります。写真1 MMCXコネクタを接続に使用したプローブの例表1にMMCXコネクタと慣れ親しんでいるBNCコネクタ、SMAコネクタの比較を示します。BNCコネクタにはビデオアプリケーション向けに75Ωのタイプのインピーダンスがありますが、ほとんどの計測器では50Ωです。またMMCXの周波数範囲はBNCコネクタより広く、DC~8GHzまで使用できます。表1 高周波対応のコネクタ抜き差しの容易なプッシュオン式の特徴はプロービング に有利といえるでしょう。プローブの接続でのグラウンド線などの使用は、波形再現性に大きく影響します。可能であればプローブ先端をダイレクトに回路に接続することが求められます。そのため以前から基板に取り付け、プローブをダイレクトに接続するアダプタは各計測器メーカーから入手できますが、実際にこれらのコネクタを基板にアダプタを取り付けることは容易ではありません。そこで、MMCXコネクタを利用します。図3はプローブ先端がMMCX対応の光絶縁プローブです。図3 MMCXコネクタを使用している光絶縁プローブ一般的なプローブもMMCXへの対応ができるタイプが増えています。図4はテクトロニクスの汎用オシロスコープで多用されている10:1パッシブ・プローブ TPP1000の例です。標準状態ではスプリング内蔵のプローブ・チップが組み込まれていますが、別売のMMCXプローブ・チップに交換することでMMCXタイプに変更できます。図3 MMCXコネクタを使用している光絶縁プローブ一般的なプローブもMMCXへの対応ができるタイプが増えています。図4はテクトロニクスの汎用オシロスコープで多用されている10:1パッシブ・プローブ TPP1000の例です。標準状態ではスプリング内蔵のプローブ・チップが組み込まれていますが、別売のMMCXプローブ・チップに交換することでMMCXタイプに変更できます。図4 MMCXコネクタ対応プローブへの変更(テクトロニクス)MMCX~スクエア・ピン変換アダプタを介して、基板に設けたテストピンへの差し込みや、リードセットとの併用ができます。ただし、リードセットの併用は波形再現性に大きな影響を与えますので、高周波信号の測定には適しません。図5 MMCXコネクタのプロービングテクトロニクスのTPP1000型は従来の10:1パッシブ・プローブとは動作原理が異なり、入力容量が半減した、「セミ・アクティブ・プローブ」ともいえる構造と思われます。またキーサイト・テクノロジーからも同様と思われる製品、Hi-Z+ Passive Probing Systemが発売されています。この中でPP0003AがMMCXコネクタに対応しています。図6 MMCXコネクタ対応プローブ(キーサイト・テクノロジー)信号の高速化によりプローブ・アクセサリによる波形再現性の低下が顕著になりつつあります。プローブ先端をダイレクトに受けるという方法は各メーカー専用品としてあることはあったのですが、現状、あまり普及していません。MMCXコネクタは各社が採用を初めており、今後のスタンダードになると考えています。プローブのメーカーにおける性能評価は、専用アタッチメントでプローブ先端をダイレクトに受ける手法です。ところがユーザーが回路にプローブを取り付ける場合はどうしても回路とプローブ間に線など入るため、波形再現性が劣ります。この劣化を軽減する、どこまで受容するかがプロービング・テクニックであり、MMCXは劣化を少なくできる有効なテクニックです。プロービングにMMCXコネクタを利用することで、同一の計測器、プローブを使用した場合の再現性を上げることができます。MMCXコネクタの活用は、波形再現性の低下の解決策の一つとなると思われます。