汎用オシロと高速オシロは何が違うのか

従来、汎用的に使われるオシロスコープの周波数帯域は最高1GHz程度でしたが、信号の高速化により数GHzの製品が増えつつあります。その一方でHDMI、PCIe、USB3などの高速シリアルバスの普及、またDDRメモリの高速化により周波数帯域10GHz以上のいわゆる「高速オシロスコープ」が使われています。

汎用オシロスコープもUSB2.0ハイスピード(480Mbps)の検証には使われます。
汎用オシロスコープと高速オシロスコープの違いは波形再現についての考え方です。

入力インピーダンスが選択できる汎用オシロスコープ
周波数帯域が100MHz以下の入門オシロスコープでは入力インピーダンスはほぼ1MΩ固定ですが、200MHz以上の汎用オシロスコープでは1MΩ/50Ωの切り替えができる製品が多くなります。
図1は1MΩ/50Ωのバッファ・アンプを内蔵した例です。

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図1 入力インピーダンス切り替えの例

1MΩ入力は10:1、100:1などのパッシブ・プローブ、高電圧差動プローブなどで使われます。
50Ω入力は50Ωの伝送路をダイレクトに受ける、電流プローブ・アンプ、アクティブ・プローブ、またパッシブ・プローブではありますが広帯域の低インピーダンス・プローブを接続します。

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図2 プローブによりオシロスコープの入力インピーダンスを切り換える

入力インピーダンス1MΩで周波数帯域が制限される理由
入力インピーダンスの項に
1MΩ 並列に〇〇pF
とありますが、この並列容量が周波数帯域に大きく影響します。

周波数帯域はソース・インピーダンス25Ωで定義されます。信号ジェネレータの出力インピーダンスが50Ω、そして50Ωで終端するため、ソース・インピーダンスは並列で25Ωになります(信号源は電圧源なので内部インピーダンスはゼロ)。

図3から分かるように入力容量が13pFの場合、周波数帯域(-3dB)は約500MHzになります。
50Ω入力では伝送線路として扱われます(本来であればリターンロスを表示するべきと思います)。

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図3 オシロスコープの入力容量が周波数帯域に影響する

以上の事から周波数帯域6GHzのオシロスコープの場合、6GHzが実現できるのは50Ω入力時のみ、1MΩ入力時は500MHzと判断できます。
(周波数帯域1GHzのパッシブ・プローブがありますが、従来の考え方とは異なる構造のプローブです)

周波数特性の違い
汎用オシロスコープの周波数特性は図4のように示されます。周波数帯域はレスポンスが直流/低周波を基準に-3dB(約70%)になる周波数になります。汎用オシロスコープの周波数特性はガウシャン特性に近似します。

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図4 汎用オシロスコープの周波数応答特性

図5は周波数帯域100MHzでのガウシャン特性のグラフです。
100MHzで-3dBに低下していますが約1/3の周波数、30MHzにて3%減少しています。これから概ね周波数帯域の1/3程度まではほぼフラットな特性といえます。

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図5 周波数帯域100MHzの周波数特性

なぜガウシャン特性なのかですが、一説として古くからのブラウン管(CRT)を使用したアナログ・オシロスコープの構造に由来すると言われています。何段ものアナログ回路を通過した結果、ガウシャン特性に近似したという説です。
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図6 アナログ・オシロスコープの構造

図7のように汎用オシロスコープの周波数特性がガウシャン特性に近いのと異なり、高速シリアルバスに対応したオシロスコープの周波数特性は周波数帯域までフラットです。
そして周波数帯域以上は急峻に減衰する「ブリックウォール」と呼ばれる周波数特性になります。これにより帯域外のノイズを減らすことができます。

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図7 急峻なカットオフ特性を示す高速オシロスコープの周波数

フラットな周波数特性を実現するために、オシロスコープ内部で周波数特性の補正を行っています。フラットな周波数特性によりパルスの高調波成分のレベルが正しく取り込まれるため、パルス形状の評価に適しています。

汎用オシロスコープと高速オシロスコープの使い分け
では汎用オシロスコープでパルスを観測した場合はどうなるでしょうか。図8左のように周波数帯域がほぼフラットな範囲に周波数成分が収まっていれば波形は正しく表示できます。しかし図8右のように高調波成分が減衰する場合は波形の鈍りが生じます。

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図8 汎用オシロスコープの周波数のパルス再現性

時間測定の誤差を3%以内に収めるためには
測定する波形の立上がり時間>4×オシロスコープ(測定系)の立上がり時間
が目安になります。

高速オシロスコープでは図9左のように周波数帯域近くまで周波数特性がフラットなので、高調波成分が周波数帯域内に収まれば波形形状は正しく測定できます。しかし、図9右のように周波数帯域外にも高調波成分がある場合は測定波形にリンギングが発生しますので注意が必要です。

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図9 高速オシロスコープの周波数のパルス再現性

一言でいえば、未知の波形を扱う汎用オシロスコープ、規格などで既知の波形を扱う高速オシロスコープと言えそうです。