電子計測の中でも一般的に最も使われる機会の多いオシロスコープは、新製品発売後5年程度で、自動車でいうところのマイナーチェンジが行われ、10年程度で新しいコンセプトの新製品に代わる傾向があります。
オシロスコープがブラウン管を使ったアナログ式からA/D変換器によるデジタル・オシロスコープに変わり、新製品が登場する度に周波数帯域、最高サンプル・レート、レコード長等の基本性能は大きく向上してきました。最近では性能向上のペースも緩やかになりつつあります。そこで従来製品のDLM2000シリーズから5年程前に改良版モデルに切り替わった横河計測のDLM3000シリーズ、および長年販売されているテクトロニクスの4000シリーズ(DPO/MSO/MDO4000)に加え、新コンセプトで登場したMSO4シリーズで何が変わったのか、従来製品でどこまで問題なく測定できるのかを検証します。写真1は横河計測の新旧製品です。どちらもシリーズ最高周波数帯域は500MHzになります。外観は全くと言ってよい程、違いがありません。写真1 現行製品のDLM3054と従来製品のDLM2054写真2はテクトロニクスの新旧製品です。外観からして全く異なります。写真2 大きく変わったテクトロニクスのオシロスコープシリーズにおける最高周波数帯域は従来製品の1GHzから1.5GHzにアップ、チャンネル数は従来製品が4CH、現行製品では4CHないし6CHが選択できます。周波数帯域が1GHz、チャンネル数4CHのモデルを考えた場合には、電気的性能に差はありません。どのような使い方なら差が無いのか、現行製品はどのような使い方で優位になるのか考察します。オシロスコープの基本性能になる最高サンプル・レートとレコード長を図1に示します。横河計測 DLM2054/DLM3054の場合大きな違いは2点です。● 全チャンネル取り込み時 最高サンプル・レート 1.25GS/s ⇒ 2.5GS/s (2倍)●最大レコード長 6.25Mポイント ⇒ 12.5Mポイント(2倍)サンプル・レートが2倍、レコード長が2倍のため、最高サンプル・レートでの記録可能時間は変化ありません。テクトロニクス MDO4104C/MSO46の場合最高サンプル・レート 5GS/s ⇒ 6.25GS/s最大レコード長 20Mポイント ⇒ 31.25Mポイント若干の改良がありますが、大きな変化ではないと言えます。図1 新旧製品の最高サンプル・レートにおける記録時間DLM2000/3000シリーズの詳細表1に横河計測 DLM3054/2054の主要性能比較を示します。表1 DLM30002000シリーズの変更点注目する点は最高サンプル・レートが2倍高速化した点です。DLM2000シリーズのサンプル・レート 1.25GS/sではナイキスト周波数は1/2の625MHzになります。図2ではシリーズの周波数帯域(200MHz/350MHz/500MHz)とナイキスト周波数の関係を示します。図2 最高サンプル・レート 1.25GS/sと周波数帯域の関係いずれの周波数帯域のモデルも周波数帯域はナイキスト周波数以下ですが、500MHzでは少し余裕が欲しいと思われます。オシロスコープの周波数特性はガウシアン特性に近似しているため、周波数帯域以上の成分も減衰はするももの、A/D変換器に入力される恐れがあります。この点から周波数帯域200MHzのモデルでは全く問題ないと言えるでしょう。むしろ周波数帯域200MHzでは最高サンプル・レート 2.5GS/sは余裕綽綽です。現行製品のDLM3054(周波数帯域500MHz)では図3のように、ナイキスト周波数は1.25GHzに上昇するため問題はなくなります。図3 周波数帯域 500MHzのDLM3054における最高サンプル・レートと周波数特性の関係オシロスコープにステップ信号を入力した場合のレスポンスは立上がり時間で表され、立上がり時間(ns)は350÷周波数帯域(MHz)で求まります。オシロスコープでは当然この立上がり時間より速いエッジには対応できません。図4に入力信号の立上がり時間、オシロスコープの立上がり時間、そして表示される測定結果の立上がり時間の関係を示します。↑上記図の表記「立上り⇒立上がり」に修正予定です。図4 立上がり時間測定における誤差要因測定にあたり信号の立上がり時間≒測定結果の立上がり時間を実現するには信号の立上がり時間×4>オシロスコープの立上がり時間であれば立上がり時間の測定結果の誤差は3%以内に収まります。周波数帯域200MHZの場合、オシロスコープの立上がり時間は1.75nsなので、入力信号の立上がり時間はその4倍、7nsまで対応できます。図5は1.25GS/s(0.8ns時間分解能)でサンプルしたイメージです。充分なサンプル・ポイントが得られています。時間軸からみても周波数帯域200MHzでは1.25GS/sのサンプル・レートで十分なことがわかります。↑上記図の表記「立上がり⇒立上がり」に修正予定です。図5 周波数帯域200MHzで対応できる立上がり時間7nsのエッジを1.25GS/sでサンプリング図6は周波数帯域350MHzの場合です。限界入力の立上がり時間は4ns、1.25GS/sで何とかといえるでしょう。↑上記図の表記「立上がり⇒立上がり」に修正予定です。図6 周波数帯域350MHzで対応できる立上がり時間4nsのエッジを1.25GS/sでサンプリング図7は周波数帯域500MHzの場合です。限界入力の立上がり時間2.8ns、1.25GS/sではエッジにおけるサンプル・ポイントは3ポイントになり、補間フィルタの影響を考えると厳しくなります。↑上記図の表記「立上がり⇒立上がり」に修正予定です。図7 周波数帯域500MHzで対応できる立上がり時間2.8nsのエッジを1.25GS/sでサンプリングDLM2054では2CH時には最高サンプル・レート 2.5GS/sが得られるので、ぎりぎりの測定では2CHモードでの使用がベターです。現行製品DLM3054では最高サンプル・レートが2.5GS/sに向上し、周波数帯域500MHzでも問題ありません。結論として●周波数帯域200/350MHzモデルでは最高サンプル・レート 1.25GS/s 従来製品で問題なし●周波数帯域500MHzのモデルで限界測定を4CHで行う場合は現行製品が好ましいといえます。また新旧製品でプロントパネルの操作、メニューに大きな違いはなく、DLM2000シリーズの操作性に慣れた方はDLM3000シリーズをスムーズに使用できると思います。またタッチパネルの採用により、特にメニューの選択が行い易くなったのは好印象です。DLM3000に慣れるとDLM2000には戻りにくいかもしれません。(続く)