適切なオシロスコープの選択 (その1)

オシロスコープの性能は周波数帯域で表示されます。そしてメーカー各社の紹介ページやカタログでは最高サンプル・レート、レコード長などの性能も記載されています。測りたい対象に合わせて適切なオシロスコープを選択することはより正しい測定への近道です。

オシロスコープの性能

オシロスコープのカタログをメーカーのWEBサイトで調べると、様々なスペックが記載されています。図1に現行の代表的な3機種のスペックをまとめてみました。

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図1 代表的なオシロスコープのスペック

ここにはチャンネル数、周波数帯域、サンプル・レート、レコード長などが記載されています。ここに並んでいる数字がこれから行う測定に十分なのかどうか判断するために、各項目の意味するところを解説します。
なおサンプル・レートの単位でS/s、Sa/sは同じ、またレコード長、メモリ長も同じになります。

各項目の意味するところ

図2に各項目の意味するところを記載しました。オシロスコープにおける重要な性能は、

●周波数帯域
● 最高サンプル・レート
●レコード長(メモリ長)

です。
使い方によっては波形取り込みレート、トリガ機能などにも着目する必要が出てきます。

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図2 オシロスコープのキースペック

オシロスコープの中身とスペックの関係

これらの各スペックはオシロスコープの中身とどのように関係しているのでしょうか。図3がオシロスコープの構造図です。入力された信号は減衰器と増幅器で構成されるアナログ部でA/D変換器の入力レベルに合うレベルに調整されます。オシロスコープの電圧感度V/divはここで決まります。
オシロスコープの周波数帯域はアナログ部分の周波数特性になります。周波数帯域はアナログ部の性能で、A/D変換器では最高サンプル・レートが、また記録可能時間は波形メモリのレコード長で決まります。

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図3 オシロスコープの構造

オシロスコープの周波数帯域

オシロスコープは直流から高周波まで対応した測定器です。その周波数特性は図4のように直流からフラットな特性を持ちます。

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図4 周波数特性とパルス応答特性

周波数が上昇するにつれ、徐々に感度が低下します。そして感度が3dB低下(70%)する周波数をもって周波数帯域といいます。

ところで現代では高周波のサイン波を波形として観測する機会は減り、パルス波形を観測する機会が多いと思います。その場合、周波数帯域はどのように考えれば良いでしょうか。
オシロスコープに立ち上がり時間ゼロの理想的な方形波を入力すると周波数帯域で決まる立ち上がり特性を示します。ほとんどのオシロスコープの周波数特性はガウシャン特性に近似しており、周波数帯域と立ち上り時間の間には


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の関係があります。

周波数帯域 500MHzの場合、立ち上がり時間は0.7ns、1GHzでは0.35nsになります。データシートには立ち上がり時間として周波数帯域とともに記載されています(機種により350という値は多少変化します)。

観測するパルス波はこの応答特性の影響を受けることになります。その影響を少なくするためガウシャン特性の場合、図5に示すように測定したいパルスの立ち上がり時間は、オシロスコープの立ち上がり時間より少なくとも3倍から5倍大きい必要があります。

具体的には周波数帯域1GHzの場合、オシロスコープ自体の立ち上がり時間は0.35nsなので、測定できるパルスの立ち上がり時間は少なくとも1ns以上の必要があります。

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図5 オシロスコープの立ち上がり時間とパルス波形の測定

標本化定理とオシロスコープの関係

オシロスコープではA/D変換でアナログ信号を量子化するため標本化定理に則って動作しなければなりません。
標本化定理とは、図6のように「信号に含まれる最高周波数の2倍以上のサンプル(標本化)周波数が必要」ということです。

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図6 標本化定理

ではオシロスコープの最高サンプル・レートは周波数帯域の2倍あれば足りるかというと、それでは不十分です。図7のように、オシロスコープの周波数特性は周波数帯域を超えても信号が通過するため、標本化定理に違反する恐れがあります。

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図7 不十分な周波数帯域と標本化定理

そのため周波数帯域の4~5倍の最高サンプル・レートをもつオシロスコープが増えています。周波数帯域の5倍のサンプル・レートではナイキスト周波数は周波数帯域の2.5倍になり、この周波数成分は十分に減衰するため、標本化定理に違反する恐れは低くなります。

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図8 十分な周波数帯域と標本化定理

等価時間サンプリングというオシロスコープ
オシロスコープがデジタル化されて以降、しばらくの間は図9のようにA/D変換器のサンプル・レートが十分ではありませんでした。そのままではオシロスコープの周波数帯域が活かせません。

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図9 初期のデジタル・オシロスコープ

そのため図10のように、信号に対しサンプル・ポイントを少しずつずらしながら何回もサンプリングして、全体波形を取り込む等価時間サンプルが使われました。あくまでも繰り返し信号のみ対応できます(現在でも数10GHzという超高帯域を実現するサンプリング・オシロスコープでは似たサンプリング手法を使用しています)。

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図10 等価時間サンプルの動作

最近では周波数帯域に対してA/D変換器のサンプル・レートが十分に得られるため、本来の標本化定理に基づいたオシロスコープが主流です。あえてリアルタイム・オシロスコープと呼ぶこともありますが、あくまでも等価時間サンプルに対した言い方であって入力された信号がダイレクトに、リアルタイムで表示されるわけではありません。

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図11 現代のオシロスコープ

パルスのエッジに必要なサンプル数はどれくらい

立ち上がり時間約4nsのパルスの立ち上がりエッジ部分を、サンプル・レートを変えながら取り込んでみます。

(1) サンプル・レート 2.5GS/s(0.4ns分解能)

図12はA/D変換で取り込んだポイントをサイン補間で結んだ波形、図13は取り込んだポイントそのままの表示です。図13からエッジ部分には約10ポイントのサンプル・ポイントが確認できますが、問題なく波形が再現できています。

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図12 4nsのエッジを2.5GS/sで取り込み

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図13 2.5GS/sでのサンプリング・ポイント

(2) サンプル・レート1.25GS/s(0.8ns分解能)

サンプル・レートを半分に落とします。図14ではエッジ部分に数ポイントのサンプル・ポイントが確認できます。この場合も波形再現性は良好です。

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図14 4nsのエッジを1.25GS/sで取り込み

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図15  1.25GS/sでのサンプリング・ポイント

(3) サンプル・レート625MS/s(1.6ns分解能)

さらにサンプル・レートを半分に落とします。サイン補間された図16では若干の振動が確認できます。図17で取り込んだポイントを確認するとエッジ部分は2ポイントです。この振動は補間フィルターの影響です。

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図16 4nsのエッジを625MS/sで取り込み

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図17 625MS/sでのサンプリング・ポイント

(4) サンプル・レート250MS/s(4ns分解能)

さらにサンプル・レートを落として250MS/sでは図18のように本来存在しない振動があります。これは補間フィルターの特性そのものです。図19を見るとエッジにはサンプル・ポイントがなく、データがLowからHighへジャンプしています。


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図18 4nsのエッジを250MS/sで取り込み

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図19 250MS/sでのサンプリング・ポイント

このことから、エッジ部分にはサンプル・ポイントは数ポイント必要なことが分かります。

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図20 立ち上がりエッジに必要になるサンプリング・ポイント

実際の製品における周波数帯域と最高サンプル・レートの関係はどうなっているでしょうか。

図21はテクトロニクス MDO4104C(周波数帯域1GHz、最高サンプル・レート5GS/s)の場合です。
周波数帯域1GHzでは立ち上がり時間は0.35ns、歪みの少ないギリギリの立ち上がりエッジは1nsです。

5GS/s(0.2ns分解能)ではエッジにサンプル・ポイントは5箇所キープできます。

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図21 テクトロニクス MDO4104Cの場合

図22は横河計測 DLM3054(周波数帯域500MHz、最高サンプル・レート2.5GS/s)の場合です。周波数帯域500MHzでは立ち上がり時間は0.7ns、測定できるギリギリのエッジは2nsです。2.5GS/s(0.4ns分解能)ではサンプル・ポイントは5箇所キープできます。

両機種とも周波数帯域と最高サンプル・レートのバランスの良いスペックと思われます。


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図22 横河計測 DLM3054の場合

必要になるレコード長

オシロスコープで記録できる時間は

記録時間=サンプル間隔×レコード長
(サンプル間隔=1/サンプル・レート)

になります。必要なサンプル・レートは上記のように測定する波形の最速エッジで決まります。一方、記録したい時間は決まっているため、必要なレコード長は上記の式から決まります。


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図23必要になるレコード長